neoteny
医ヰ嶋蠱毒

僕の右肩へ憩う鴉が
君の憂鬱を啄む宵にのぼる満月
卵殻は肉體の成熟だけを迎え腿を伝う経血と
なお幼い儘の世界を眺望する君の病室に山積し
癲狂院の広場に谺するクランケの聲に扉は披く

「ようこそ、君だけの夜へ」

幾つかの睦言を代償に二羽の鳩を贖う僕の窓から
城塞は幾世紀を経て尚堅牢に旧びた秘密の応えを飾る
金木犀の薫を纏う君は擬態する惨憺の錯視を抜けて
丘に聳えるモノリスを墓碑とし己が履歴を予め刻み込むのだろう

数え切れぬ絶滅とネオテニーの先頭に
ただヒトたる為の鋭利な理性、鋩に立つ者の一人として

前世の罪業と天使の心臓を秤に掛け桟橋より彼岸へ渡る
呪詛は信仰を五十銭で鬻ぐ君の黄泉路で太古の祝福へと転じ
枯葉を濡らす一滴の遺伝から産れた爬虫の阿頼耶識を
蒐め織られた鵬翼の対で虚空を翔けよ

「風、裁ち、風、裁ち、壮麗、美麗」

象牙の塔と極光の許で電子の九相図を繙く君の
華の咲く黎明を俟たずして此処に不死が啼く
独り歩む航路に影も遺さず、告解を棄て舵を東へ
連綿と続くアステリズムの真理の上で君の五指は白皙の
幼形を示し解剖台に載せられた肺臓がプルトニウムの詩を綴る

数え切れぬ絶滅とネオテニーの先頭に
ただヒトたる為の鋭利な理性、鋩に立つ者の一人として



自由詩 neoteny Copyright 医ヰ嶋蠱毒 2023-12-04 21:47:55
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