テレビ放送
たもつ
ほつれていくテレビに
故郷が映った
見慣れた橋や川面の姿
人も映っているけれど
ほつれていて
よくわからなかった
会釈くらいはしたかもしれない
そう思うと
雨の音が聞こえた
忘れていた化石になる夢
側溝に足がはまって抜けなくなる
それが夢の始まりだった
春の陽にあたりながら
ゆっくりと化石になっていく
泣きたくなるほど
長い時間が要るのだと
その時に初めて知った
新しい風除けがいる
と言い残して
買い物に出掛けたまま
母は帰ってこなかった
しばらくは
窓を開けておいたけれど
入ってくるのは
別のものばかりで
後でうまくできるように
分類して並べていった
その中には父も含まれていて
小さな声で
ただいま、と言った
脱いだ靴が雨に濡れて
父は数日外に出られなかった
遠くなったり
近くなったりしながら話をした
たぶん話せなかったことも
いくつか話した
その時もテレビは
ただほつれているばかりで
二人で何を話したのか
今となってはもう
聞き取ることも出来なかった
(初出 R5.12.2 日本WEB詩人会)