檸檬
本田憲嵩

台所を独壇場にする、
梅干しよりも止めどない、
はるかに暴虐的な唾液の滝、ほとんど果汁にも紛うほどに、
強烈な、そのかおり、
それでいて、
主役の実力を才能以上に引きだす、きわめて個性的で有能な助演役者、
スーパーの特売日に買った、
タレ付の豚肉のステーキに付いてきた、
たった二枚のちいさな輪切り、
でさえも、
そんな君に思わず齧り付いたとしても、君はただただ酸っぱいだけの、
食べれない黄色い果実、
そんな食べれない黄色い果実が生じている、「食べたい」を誘発する甘酸っぱい果実のフェロモン、
それは檸檬、
君はあまりにも目立ちすぎる、
影の立役者、



自由詩 檸檬 Copyright 本田憲嵩 2023-11-27 03:02:41
notebook Home 戻る