蜜柑ふたつ
ただのみきや

目は寒がりな二匹の猫
一匹は窓辺に立って外を見る
一匹はこたつの中で夢を見る
景色に重さはなく
重さのないこころとつりあっては傾いて
朴訥に歩を乱す
冷たい針が刺さったままの雲の針山
隠しようがない
雨が雪にかわるまで
苦い泥水と枯葉ばかり喉に詰まって


 **


時計は出来損ないの時限装置
塵をかきまわすだけ
声を出せない秒針は
うわさばかりで目には見えない
死刑執行人が頭の中までうろつきまわる気配か
別に終末論者の火照った心臓に鎮座した
金時計を覗かせてもらう必要はない
居住まいなど正さずに
日常を愛するふりをして
泡沫の兆しなど気にもせず
目利きのように歴史のガラクタから
錆びない一本の釘を見つけ出せ
そうして何事もなかったかのように
一方向へ怒涛の如く流れ出す人の群れを
酔いどれのステップですり抜けながら
かつて釘が打たれた所
唯一無二の痛点を求めて
燃え上がるその日その瞬間まで
からから笑うあんなしゃれこうべ
時のかざぐるまなど目の縁に追いやったまま



                  (2023年11月26日)










自由詩 蜜柑ふたつ Copyright ただのみきや 2023-11-26 10:27:58
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