冬を旅するために
山人


 退廃的な茶色い風景は一掃され、どこも白いベールに覆われている。嘘のような本当の話、のような風景がある。
 雪にまつわること。たくさんあり過ぎて語れないほど。雪を心待ちした青年期、悩まされた中年期、そして老いを感じる今の眼前に或る物は、奇跡のような色を放つ雪の世界だ。
 雪が美しいと人は言う。間違いではない、むしろそれは正しい。雪国に住む者にとっては、それは悪魔だったりするが、やはり美しさに間違いはない。どんなに仕打ちを受けようとも、その美しさは普遍であり、だからこそ雪の中に埋没する。
 冬の苦しさ・厳しさ、閉塞感は語るまでもない。しかし、日の光が雪氷に反射すると、その表面は宝石をちりばめたように光る。視線の先から次の視線まで、宝石は無限に雪の表面に点滅を繰り返す。
 冬は異国だ。私たち雪国人はこれから長い旅に向かうのである。季節感のあまりない三つの季節とは無縁の、異質な雪だけの世界の旅に向かうのである。


自由詩 冬を旅するために Copyright 山人 2023-11-26 08:09:03
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