竪琴 (旧作)
石村




子守歌がきこえて
野は秋色にひらけゆく
かなたを渡るひとひらの雲
古き心のなつかしさ……


夏のかたみに置き捨てられた
小さな竪琴を奏でてゐるのは
優し気にうなだれる草々を揺らして
ひえびえと晴れ空に溶ける風


耳をすませて 僕らここでそんなひとつの夢を見よう
陽はすっかり落ちようとしてゐるのだから
そのほのかな残照の 僕らの心にしみいるままに


そしてすべてが和やかに僕らを溶け合はすこの時
息をひそめて 僕は お前は 囁くだらう
不安な魂のままに あてのない祈りのままに 囁くだらう


         (一九九六年十月五日)



自由詩 竪琴 (旧作) Copyright 石村 2023-11-14 22:31:50
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