定家葛
佐々宝砂
春先に剪定したあと
ほったらかして積んであった槙の枝に
定家葛がまとわりついて
白い花を咲かせている
もう死んでいるのよその枝は
もう緑を吹くことはないのよその芽は
この鮮やかに青い季節が訪れるたび
わたしは思い返す
わたしが差し出した一枚の紙を
それを読みもせずに破り捨てたひとの手を
初夏の晴れやかな一日は暮れかけ
地虫は崩れかけた去年の蜂の巣に這いこみ
むくどりは誘いあわせて薮のねぐらに帰りゆき
わたしはわたしで帰るほかない家に帰って
そろそろ夕飯を作らなきゃと考えながら
定家葛を見つめている
死してなお墓にまつわる執着を
ひとはうとましく思うだろうか
定家葛はいっしんに咲いている
死んだ枝にはがねの意志でしがみつき
香りもない無愛想な花を咲かせている