定家葛
佐々宝砂

春先に剪定したあと
ほったらかして積んであった槙の枝に
定家葛がまとわりついて
白い花を咲かせている

もう死んでいるのよその枝は
もう緑を吹くことはないのよその芽は

この鮮やかに青い季節が訪れるたび
わたしは思い返す
わたしが差し出した一枚の紙を
それを読みもせずに破り捨てたひとの手を

初夏の晴れやかな一日は暮れかけ
地虫は崩れかけた去年の蜂の巣に這いこみ
むくどりは誘いあわせて薮のねぐらに帰りゆき

わたしはわたしで帰るほかない家に帰って
そろそろ夕飯を作らなきゃと考えながら
定家葛を見つめている

死してなお墓にまつわる執着を
ひとはうとましく思うだろうか

定家葛はいっしんに咲いている
死んだ枝にはがねの意志でしがみつき
香りもない無愛想な花を咲かせている


自由詩 定家葛 Copyright 佐々宝砂 2005-05-16 02:55:57
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