走ってゆくことが虫の特権ならば
佐々宝砂

走ってゆくことが虫の特権ならば、書き進めてゆくことは蛇の特権だ。蛇は夕暮れであろうが朝であろうがそんなことおかまいなしで、部屋をどんどんよこぎってゆき、得体のしれないアルファベットを綴ってゆく。街に繰り出したらもっとおおごとだ。道路に書かれた白い文字群は、誰に命令されたわけでもないのに道路から次々に剥がれて、全く無目的に裏返り跳ねとびひるがえって、交通を疎外している。なんて陽気なアルファベットだ。どうして巫女はいないのか。


自由詩 走ってゆくことが虫の特権ならば Copyright 佐々宝砂 2005-05-16 02:54:04
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