帰って来ました
zenyama太郎

君は年末の寒い朝に
僕の待つ駅のプラットホームに
夜行列車からひとり降りた
列車の窓から君の友人たちが
食い入るように僕を眺めていた
久しぶりの再会だったが
会話はなぜか弾まなかった
彼女も緊張している感じだった
夜になると
東京から帰ってきた先輩を囲んでの飲み会に
彼女を連れて参加した
先輩たちから
おめえ いい彼女じゃないか 大事にしろよなどと
次々に声をかけられた
タクシーでアパートに帰り着くころには
大分酔っぱらていた
部屋へ入ると
一つしかない布団を敷いて
一緒に寝ようと言ったが
彼女はコタツでいいと言った
僕は酔いをさますために
アパートのまわりをぐるぐる歩いた
次の朝ふるさとへ帰る列車の中で
僕はずっと不機嫌だった
目の前の席には僕たちのようなカップルが
手をつないで楽しそうだった
正月には成人式の着物で着飾った彼女が
うちに遊びに来た
おふくろがだれなの?と聞くから
同級生の○○○さんとだけ短くこたえた
それからしばらくして彼女は東京へ戻っていった
しばらくして今度は
結婚を前提にお付き合いしてと申し込まれた
どうしよう?と手紙が届いた
僕はまだ学生だからと短く返事した
そしてしばらくして彼女が結婚したと
風のたよりに聞いた
それから四十年いや五十年
二人は立派なおじいちゃんとおばあちゃんになった
今久しぶりに実家に帰ってきました
とメールが届いた
僕はお帰り 風邪引かないようにねと短く返事した
やさしいメールがとてもうれしかったとまたメールが来た
その後二、三回メールが来て
一週間ぐらい実家に滞在して
彼女はまた東京へ帰っていった





自由詩 帰って来ました Copyright zenyama太郎 2023-11-03 07:50:06
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