黒犬の眼球
中田満帆
慈悲とつれあって深夜のスーパーを歩いた
あるいは慈愛とつれだって萩の花をばらまいて歩いた
おれたちにとっての幸運が猫のしっぽであったような、
あるいは取り残された者たちの最後のワルツであったような、
そんな心持ちで郊外を歩いたんだ
まだうら若いきみの心臓にはどうやらとどかないようだが
いったいどれほど距離をおれたちは歩いたのだろうか
慈悲はいう──おまえに救いがないと
慈愛はいう──おまえに愛はないと
ひるがえったマントに黒犬の眼球を光らせて、
おれたちのまえをいまきみが通り過ぎてゆくんだ。