陽の埋葬
田中宏輔
日の暮れ方の川辺り、湯女の手の触るる神の背の傷痕、
──その瘡蓋は剥がれ、金箔となつて、水の中を過ぎてゆく……
(魚の潰れた眼が、光を取り戻す、光を取り戻す。)
日の暮れ方の川辺り、湯女の手の触るる神の背の傷痕、
──その傷口より滴る神の血、神の血は、砂金となつて、水の中を過ぎてゆく……
(……、刮げた鱗や鰭々が、元に戻る、元に戻る。)
神の背を流るる黄金の川、湯女の手、湯女の手の椀に、溢れ、零れ、溢れ、零れ……
それでも、わたしは、わたしの
──傷はいやすことのできないもので(ミカ書一・九、罫線加筆)
わが目は絶えず涙を注ぎ出して、やむことなく(哀歌三・四九)
わたしの目には涙の川が流れてゐます。(哀歌三・四八、歴史的仮名遣変換)
打ち網の網目、絡みつく水藻、、水草、、、川魚、、、、
──わたしの涙は、昼も夜も、わたしの食物であつた。(詩篇四二・三、罫線加筆及び歴史的仮名遣変換)
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浮子
浮子
湯女の手が解す、繭屑で拵へたる嬰兒、
──竹箍締めの木の盥の中、解けた繭屑が、魚となつて泳ぎ出す、泳ぎ出す。
さうして、わたしも
──わたしの肩骨が、肩から落ち(ヨブ記三一・二二、罫線加筆)
わたしの骨はことごとくはずれ(詩篇二二・一四)
悲しみによつて溶け去ります。(詩篇一一九・二八、歴史的仮名遣変換)
──主は彼らの水を血に変らせて、その魚を殺された。(詩篇一0五・二九、罫線加筆)
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浮子
浮子
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雨が流れてゐる。
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雨が流れてゐる。
川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。
──古い雨だ。
栞、胙、箒持ち、虫瘤、馬塞棒、燐寸箱、……、
──みんな、古い雨だ。
湯女の手の触れし、神の背の傷痕、
──神の背、神の背を流るる黄金の川、
其は、地に墜つ、湯女の手、湯女の手の椀に、溢れ、零れ、溢れ、零るる、黄金の川、
川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。
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浮子
浮子
網代、簀子、礫石、
──古い雨だ。
──みんな、古い雨だ。
湯女の手の触れし、神の背の傷痕、
──神の背、神の背を流るる黄金の川、
其は、地に墜つ、湯女の手、湯女の手の椀に、溢れ、零れ、溢れ、零るる、黄金の川、
川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。
川の中では、ひつきりなしに、雨が流れてゐる。
先に訪ねて来たものも、後からやって来たものも、もう、ゐない、……
もう、ゐない、……
、……
石垣に濡れた雨、
だれもゐない橋上、
雨も、雨に濡れてゐる。
雨も、雨に濡れてゐる。
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雨蛙、
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雨蛙、
輪禍の轍、
その骨の罅に触れる処、