夏の予定
たもつ



観葉植物に餌をやり忘れて
餌はやらなくていいんだよ、と
言葉で教えてくれた人がいた
階段のよく晴れた踊り場のあたりにも
エタノールの匂いがしていて
その間、何本かの準急列車に
乗り損ねてしまった
仕方なくその滑らかな付箋の質感を
爪で剥がすしかなかった

日々の生活を見渡せば
このように剥離していくものは
常に身体などの近くにあり
子供の頃、人と人の隙間に
はぐれたこともあったけれど
どこかで線引きをしなければ
多分あのまま全部
子供であり続けた

上席に夏の予定を聞かれ
特に隠すつもりもなく
雨に溶けていく海の泡沫を思いだし
薄っすらと伸びていく砂の陰影や
誰にも知らせなかったフナムシの亡骸が
懐かしく感じられた

観葉植物についている外国語の名前を
ひとつずつ覚えていったように
命は囁きに戻っていく
少しまとまった夏休みを取ったのに
初日の朝、窓を開けると
もう秋の気配がしていた





(初出 R5.10.14日本WEB詩人会)



自由詩 夏の予定 Copyright たもつ 2023-10-15 00:04:57
notebook Home