試着室
たもつ



試着をし続けている間に
ぼくらはすっかり
年を取ってしまった
兄は定年退職を迎え
父と腹違いの叔父は
ベッドから起き上がれなくなった
会津に帰ると言って聞かないのよ
叔母が愚痴をこぼしていく

店舗は閉店して空地だけが残った
それでも毎日やってくる明日の
服装が決まらないから
ぼくらは試着をし続けるしかなかった
これどう
可愛いよ
そればっかり
きみの好みは熟知しているから
的は外さない

やがてぼくらの身体は無くなり
そんな他愛もない定型のやり取りだけが
いつまでも繰り返される
試着室のカーテンが風に揺れて
世界はそこで終わっている





(初出 R5.10.11 日本WEB詩人会)


自由詩 試着室 Copyright たもつ 2023-10-12 00:13:09
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