陽の埋葬
田中宏輔
蟇蛙よ、泣け。
泣くがいい。
ぎやあろ、ぎやあろと
泣くがいい。
父は死んだのか、
母は死んだのかと
泣くがいい。
降らせるものなら、
雨を降らせよ。
(『ブッダのことば』第一・蛇の章・二・ダニヤ、中村 元訳)
蟇蛙。
る。
せめて
おまえの背に降らすため、
ぎやあろ、ぎやあろと
泣くがいい。
雨よりほかに触れるもののないその背皮、
背中は曲って、足はびっこで、
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳)
何者も顧みぬ醜い瘤疣の塊、
穢わしいせむしのひき蛙。
(シェイクスピア『リチャード三世』第四幕・第四場、福田恆存訳、句点加筆)
祈りを棄てた蛙が
みんなそうであるように、
(グリム童話『こびとのおくりもの』高橋健二訳)
おまえのせなかはまがってる。
(グリム童話『そばの、がちょう番の女』高橋健二訳)
る。
おお、蟇蛙よ、蟇蛙よ。
だれがおまえをつくったのか?
(ヴァレリー『ユーパリノス あるいは建築家』佐藤昭夫訳)
だれに
おまえはつくられたのか?
さあ、
ハンカチをお空け、
(シュトルム『みずうみ』森にて、高橋義孝訳)
おまえの美しい骨はどこにある?
祈りの声といっしょに
おまえは、おまえの美しい骨を、どこに棄ててきたのか?
おお、蟇蛙よ、蟇蛙よ、泣け。
蟇蛙よ、泣け。
泣くがいい。
ぎやあろ、ぎやあろと
泣くがいい。
父は死んだのか、
母は死んだのかと
泣くがいい。
降らせるものなら、
雨を降らせよ。
(『ブッダのことば』第一・蛇の章・二・ダニヤ、中村 元訳)
蟇蛙。
る。
せめて
おまえの背に降らすため、
ぎやあろ、ぎやあろと
泣くがいい。
まがった背骨と
その身をひきずり
(伝道の書一二・五)
美しい骨が出る
(泉 鏡花『春昼後刻』)
墓から墓へと
(ベルトラン 『夜のガスパール幻想詩』イスパニアトイタリア・Ⅰ・僧房、伊吹武彦訳)
さ迷い歩け。
美しい骨が出る
(泉 鏡花『春昼後刻』)
墓から墓へと
(ベルトラン『夜のガスパール幻想詩』イスパニアとイタリア・Ⅰ・僧房、伊吹武彦訳)
さ迷い歩け。
*
るるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる
(草野心平 『春殖』)
電話の向こうで、
生埋になつた
(トリスタン・コンビエェル『蟾蜍』上田 敏訳)
ひき蛙が呼んでいる。
(シェイクスピア『マクベス』第一幕・第一場、福田恆存訳)
「わたし 死んだのよ 死んだのよ 死んだのよ」と
(マヤコフスキー『背骨のフルート』稲葉定雄訳)
そうだ、
(ロジャー・ゼラズニイ『ドリームマスター』4、浅倉久志訳)
ママは死んだんだ。
(ナボコフ『ロリータ』第一部・32、大久保康雄訳、句点加筆)
「此方へいらっしゃい。こちらへ」
(志賀直哉『網走まで』)
「此処なら日が当たりませんよ」と
(志賀直哉『網走まで』)
ああ、わたしはどこへ行くことができよう。
(創世記三七・三0)
骨でできた
(オクタビオ・パス『砕けた壺』桑名一博訳)
鍵束が擦れ合う場所のほかに。
そこは、
骨でできた
(ズビグニェフ・ヘルベルト『釦』工藤幸雄訳)
鍵束が擦れ合う処。
ああ、電話線地下ケーブルが燃える!
絵が溶けて、絵の具に戻る?
苦しい、おお苦しい!
(シェイクスピア『リア王』第五幕・第三場、大山俊一訳)
骨よ、
(本間弘行『みちのり』)
悲しみの骨よ。
(ジョン・ベリマン『ブラッドストリート夫人賛歌』澤崎順之助訳)
ルル、
ルルルル、
ルルルル、
'Hello,'
もしもし、
'Hello,'
もしもし、
*
ああ、血だ、血だ、血だ!
(シェイクスピア『オセロウ』第三幕・第三場、菅 泰男訳)
真二つだ、真二つだ。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳)
真二つになる、真二つに!
(シェイクスピア『あらし』第一幕・第一場、福田恆存訳)
上から下まで真二つに裂けた
(マタイによる福音書二七・五一)
誰かヒキガエルが道の上をはうのを見たか?
(ラー・クール『隣人愛』山室 静訳)
半裂きの蟇蛙を。
己れの身を真二つに引き裂き、
あらゆるものすべてのものの半身となる蟇蛙を。
おお、蟇蛙よ、蟇蛙よ。
半裂きの蟇蛙よ。
私はあなたの半身なのよ、
(シェイクスピア『ヴェニスの商人』第三幕・第二場、大山敏子訳)
せめて、
古い歌と祈りで私を埋葬しておくれ、
(メイスフィールド『別れの歌』大和資雄訳)
私はよろこんで滅びよう。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳)
私はよろこんで滅びよう。
(ゲーテ『ファウスト』第一部、相良守峯訳)