連作詩集「自由落下」冒頭十篇
岡部淳太郎




葉がふと 落ちる
はな れ て
      ゆく

おとなしい
終りが
始まる

それにそなえて
私を 消す




浮き出た血管のように
夜を
青い星がはしる

――ながれぼし、って、いうんだよ。
子供の頃に教えられた

その本当の姿は誰にも見られることはなく
地上で騒がれるだけで
願いはいっしゅんのうちに数えられては
よりわけられてしまう

すべては知らぬ間
さだめられた星が落ちる
見たという事実さえあやふやな
そのまばたきの間に




重力に惹かれて
描く直線

詩の長い一行のようだ
長いながい 落下のようだ





それでも
消すに消せない
老いへと向かうこの身の
うす汚さ

それもまた
一つの自由であるか

私はゆっくりと
落ちてゆく
その途上にある
見えるのは 地

それとは反対に
ふわりと飛び立つものがあって

あ、
重力




たがいに引かれ合う力

私には そのような
人もないから
物憂さへと
たがいに引かれて
落ちてゆく

恋人たちが
たがいに引かれて
落下し合うように




誰もがおとなしい
おとなしくなければ
生きてはいけない

そのそばで騒がしく
なにかを予告するように
喚き立てる者がいて

人々は
なにかが落ちてくるのを
予感のように じっと
待ちかまえていて




落ちてゆくことは
浮き上がることに似ていると
誰かが言った

いま いくつもの枯葉が
落ちながら
中空で止まって
浮き上がるように
漂っている

その様子はまるで
一枚の絵のように




生まれ落ちてしまったと
どこかで赤子が泣いている
こんな世の中に
どうして落ちてしまったのかと

いいんだ
そのままでいい
落ちてしまったら
もうその先はないから
生まれ落ちたのこの世で
這いずるように生きていけ

それを覚えるまでは
ひたすらに泣け




落ちることは
すべてのはじまり

記憶のなかに
なにかが落ちて来て
それから私たちは
生の一歩を歩みはじめる

飛び立つためには
まずは落ちなければ


10

落ちた後の枯葉を
拾い集める人がいる

落ちた後にこそ
傾けられる思いがある



(二〇一七年二月~八月)


自由詩 連作詩集「自由落下」冒頭十篇 Copyright 岡部淳太郎 2023-10-08 18:49:25
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