連作詩集「自由落下」冒頭十篇
岡部淳太郎
1
葉がふと 落ちる
はな れ て
ゆく
おとなしい
終りが
始まる
それにそなえて
私を 消す
2
浮き出た血管のように
夜を
青い星がはしる
――ながれぼし、って、いうんだよ。
子供の頃に教えられた
その本当の姿は誰にも見られることはなく
地上で騒がれるだけで
願いはいっしゅんのうちに数えられては
よりわけられてしまう
すべては知らぬ間
さだめられた星が落ちる
見たという事実さえあやふやな
そのまばたきの間に
3
重力に惹かれて
描く直線
詩の長い一行のようだ
長いながい 落下のようだ
4
それでも
消すに消せない
老いへと向かうこの身の
うす汚さ
それもまた
一つの自由であるか
私はゆっくりと
落ちてゆく
その途上にある
見えるのは 地
それとは反対に
ふわりと飛び立つものがあって
あ、
重力
5
たがいに引かれ合う力
私には そのような
人もないから
物憂さへと
たがいに引かれて
落ちてゆく
恋人たちが
たがいに引かれて
落下し合うように
6
誰もがおとなしい
おとなしくなければ
生きてはいけない
そのそばで騒がしく
なにかを予告するように
喚き立てる者がいて
人々は
なにかが落ちてくるのを
予感のように じっと
待ちかまえていて
7
落ちてゆくことは
浮き上がることに似ていると
誰かが言った
いま いくつもの枯葉が
落ちながら
中空で止まって
浮き上がるように
漂っている
その様子はまるで
一枚の絵のように
8
生まれ落ちてしまったと
どこかで赤子が泣いている
こんな世の中に
どうして落ちてしまったのかと
いいんだ
そのままでいい
落ちてしまったら
もうその先はないから
生まれ落ちたのこの世で
這いずるように生きていけ
それを覚えるまでは
ひたすらに泣け
9
落ちることは
すべてのはじまり
記憶のなかに
なにかが落ちて来て
それから私たちは
生の一歩を歩みはじめる
飛び立つためには
まずは落ちなければ
10
落ちた後の枯葉を
拾い集める人がいる
落ちた後にこそ
傾けられる思いがある
(二〇一七年二月~八月)