解放の海
soft_machine

近所の子どもらが
精霊バッタのあと足を外していた
お腹をこすり
みどりの泡をうっとりと掬う

人と群れるのを嫌がる
犬のくび輪にゆわえた
鈴にころがる心臓
そっちに行ってはいけない 海だ

土がなつかしい
風がなつかしい
これで、夏の ことばを失わせる空白から
逃れられたのだ
それなのに
棄ててきた過去と あらゆる嘘と
ほんのわずかな正直
消しきれない記憶に襲われ
そこで意識は途切れ
空に実をむすぶ 花が散り
空に
べつの蕾がゆるみ 花が咲く

汚れてるけれど
きれいな秋
夏のはじまりと終わりが
やっとひとつになったみたい
そしてそのまま はじまりの海
大きくてちいさい
同じところがひとつもない波
わたし達のこころの中で
出会いと別れをくり返す

そのどこかに属せたなら
わたしも あの子どもらのように
力を取りもどせる
犬のように 沖へ走りだす





自由詩 解放の海 Copyright soft_machine 2023-10-03 10:30:14
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