無題と言う幻想
おぼろん

雨が降ってきた。
それがどんな〆の雨なのか分からず、
わたしはただ空を見つめていた。

遠い、はるかに遠い場所に、
雨雲は鎮座していて、
わたしに声を聴かせようとするのだった。

雨の音、雨の声。
これでは買い物には行けないよ。
いや、行かなくては……

父の乞うままに、
亡くなった母と同じように振舞う。
ああ、奇跡かな。

出かける直前に、
雨は止んだ。
晴れではない、曇り空。

少しの寂しさと引き換えに、
少しの幸福を胸に抱く。
ああ、郷愁よ。

わたしの知っている、
いや知らない、
友人たちの声が聞こえる。

ああ、それはなんと雨に似ているのだろうか。
前向きに前向きにと思いつつ、
前に向かって逃げていく。

それは、刹那主義の哀悼。
わたしは、この日々を弔う。
いつかの過去。

今日は今日であり、
明日の悩みなど他愛もない。
ただわたしは、出かけていかなければならぬ。

日常の欺瞞よ、心配事よ。
わたしはすべてを忘れ去ろう。
秋の霜が降りくるそのときまでに。


自由詩 無題と言う幻想 Copyright おぼろん 2023-09-30 07:20:31
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