最終戦争 (旧作)
石村
好い天気だ。
聖地の陽光が混じりつ気なく鳴り響く
こんな好い天気だ。
振つ切れたやうな気圏のまつただなかを
透けた南風がかるがると翔び
雀の子等はあどけなく驚き
無疵な水晶の真昼時。
夢追ひの牧神は草笛を吹きながら
白亜紀の川土手を立ち迷ふばかり。
限りない限りの笛の音も
美しい時計とともに忘れられ
川の流れは夏の空色。
そこで溺れてゐた日々も余りに遠い。
ああ伝説の懐かしさ!
古代の遊星は何処まで落ちて行つたのか……
既に俺は清々しい朝を忘れ
虹の橋にしづかな祈りを捧げ
きよらかな光の発見にこころざす身だ。
創世の青空の還る日を夢見て――
最早この世の果てだ。
しなやかな野獣のやうに絶望し
薔薇色の風に髪なぶらせて
木靴の足取りかろやかに
最終戦争の跡地を闊歩するさ。
(一九八九・九・二九)