優しい崩壊
塔野夏子
優しい崩壊がはじまっていた
あまりにも優しいので
感じるべき痛みを
感じることができない
あまりにも無垢な幻想が
あまりにも無垢なまま
此処を通りすぎることはできず
幾重にも折り畳んだ意識で
守るには もう遅すぎる
美しい旗のように
頭上に翻っていたものが
千切れて 消えてゆくけれど
涙も零れず
せめて やがて
静かな雨が降りますように
感じることのできなかった痛みは
何処の空に谺するのだろうか
おそらくそれを知ることもない
レクイエムを歌いながら
此処を立ち去る日が来るまでは