熟夏
ただのみきや

釣銭分の時間
ひらひらまなざしをいざない
ゆれるラベンダ―にそっとおりた
日陰のむらさきに渇きをあずけ
ふる翅の白い静けさから
乗りかえた 瞳の上
裳裾をひいて素足でわたる
いまだ地に伏したままの
熱い獣の背を
こどものふりして撫でるもの
傾いてゆく日のかなたから
声を嗄らした沈黙が
若き日の叔母のよう
影法師に口づける
時を切らした去り際の
焼失は
一瞬にして哀悼の隙もなく
ことばにされるまでが美しい
忘却は誰もみな
季節の端に掛かったまま



             (2023年8月26日)








自由詩 熟夏 Copyright ただのみきや 2023-08-26 17:06:10
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