回帰線
soft_machine

 ちいさくて固い 心臓が
 そっと弛まるように
 白い雲は
 もう 空の高さを競わなくなった

 風が足跡をうずめるように
 虫達も その聲を次第に顰ませて
 次つぎと落ちて プリズムの
 ひと粒まるい雫になった
 そこに 一枚の楽譜があって
 いつまでも連なる
 ひくい雨 ひらかれた窓には
 細くて ひき伸ばされた
  膜 純水 木もれ

 (漸くなら 綺麗だとおもう)

  瞳に結ぼれたほそい錘は
 揺れながらある図を描く
 波の重なりには決して届こうとしない
 どれだけ張りつめようと
 それはいつまでも鰓を持たない
 皮膚の息のし難さを

 (このふところまで来る波が)

  別離し 潤す
 眺められたのは
  ただひとつ確かに あの雲
 今とも違うま新しい水を求めて
 また降らせる
 他に交わるもののない祈り

 そして乾いたあの夏
 回帰する線は
 ひかる道しるべ
 




自由詩 回帰線 Copyright soft_machine 2023-08-22 15:06:18
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