ゆりか
山本やま

湯船の蛇腹式の蓋を開けると、カツラが浮いていた
黒髪でセミロングほどの長さのカツラだった
嫌がらせだと思ったので、警察に届けて回収してもらった

一週間、今度はベランダにカツラが落ちていた
ここは四階だ、外から侵入出来るとは思えない
また警察に届けた
朝と夕方二回、警察が見回りに来てくれることになった
そこから三週間は何もなかった

三週間後、押し入れの中にカツラがあった
身に覚えのない女性用下着まであった
とうとう僕は部屋の鍵を変えた

それからといもの
洗面台のミラーの内側にヘッドの小さな歯ブラシ、
引き出しを開けると赤色の化粧ポーチ、
クローゼットに膝下丈の藍色の花柄ワンピース、
靴箱に8センチはあるエナメルのヒール靴などが少しずつ増えていった

薄紫色の大学ノートが本棚から出てきた
女性目線で書かれたポエムや日記がびっしり詰まっている
それがまた妙にポジティブで可愛さは正義な文章だった
読んでいるだけで吐きそうだった

誰かが僕の知らない間に、僕の部屋で勝手に生活をしている

警察は近所の人たちに聞き込みをしてくれた
向かいのアパートに住むお爺さんが見ていた
女性の服装で外へ出て行く僕に似た男を
何それ僕がやったっていうこと?
そうは言われても何一つ覚えていない
警察の僕を見る目は冷んやりしている

気分が悪くなった僕は家を飛び出して公園へ
しばらくベンチで横になる
目が覚めたので、帰りにセブンイレブンへ寄る
酒といくつかのつまみ、
そしてバラドゥの季節限定ネイルを買って帰った





自由詩 ゆりか Copyright 山本やま 2023-08-20 11:22:19
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