夏の庭にて
塔野夏子
亡びたもののあかるさが満ちる夏の庭
もう誰も時刻を読むことのない白い日時計
茂みに囲まれた小さな池
茂みをざわめかせていた風がやむと
あちこちの陰にひそんでいた気配たちが
(それが何の気配なのか
私は名づけることができない)
つぎつぎと立ちのぼってゆく
立ちのぼるほどに透きとおり
あかるい夏のなかぞらへ消えてゆく
ひとしきり立ちのぼり消えてしまったあとの
完全な静寂
その底に
空っぽのあかるさを受けとめながら
紅く小さく咲く数輪の睡蓮
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夏について