「0」を探す
夏井椋也


「0」を探す旅は続く

一昨日も今日も
おそらく明後日も

「0」は見つけづらい上に
なかなか手に入らない

排水溝の鉄格子に引っかかっていたり
街路樹の枝先で揺れていたり
さよならしたあなたの靴底に貼りついていたり
うっかり溜息で吹き飛ばしてしまったり

見つけたと思った瞬間に
「0」は跡形もなく消えてしまう

仕方がないので
アトレで買った「1」のレプリカで「2」をつくる
絵画館前で拾った「1」のレプリカで「2」をつくり続ける

せっかくつくったのだからと
「2」を本物の「1」と偽って見せびらかしたりするが
そんなものは「1」でも「2」でもなく
ただの「3」だと嗤われる始末

「0」を探す旅は続く

もし「0」が手に入ったら
わたしはもう「2」をつくらないだろう

もし「0」から本物の「1」をつくることができたら
「0」を探す旅の呪いは解けるのだろう

おそらく
おそらく




自由詩 「0」を探す Copyright 夏井椋也 2023-08-05 08:03:41
notebook Home