風のシネマ
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 田舎のビルでみた 踊り場 シネマ
 月光 スクリーン 古びた壁に
 主人公、現わる とある風
 恋は またたく間に想いを伝え
 うかれ気分を流れに運び去られても
 次の季節に 誘われ飽きない
 ほんとうは自分から
 勝手にその場を飛び去っているだけ なのに
 振られちまった って、いつも勘違い

 歓客は 窓にもなれた虫たち
 風の気持ちを 翅にくぐらせ
 エンドロールもない
 影が移って フィルムが切れても
 いつまでもその場から剥がれようとはせず
 ただ静かに お互いの触覚を確かめあい
 何かの聲を待った
 鳴きもせず

 どうして
 こんなに 淡いのだろう
 そんな、一夜の夢を 人は笑うだろうか
 すこし明るすぎる照り返しが
 眺めるだけの皮膚に留まって
 また、上映の釦を押すのではないか
 何故なら きみは 風のシネマ
 未来しか見ず旅してる
 いつだって不意に現れて 片恋を募らせるけれど
 夏は 空の高くに終わりの青をはやくも掴み
 裂けたこころの袷をつかみ
 急ぎすぎた跡を残して 曲がり角をとり忘れ
 わたし達に 気づかせもしない
 ゆたかな過去が 何であるのか
 風が愛した昨日が終わる

 明けて花とひかり ふたたび虫たちの気配
 みんな、どうして 燃えているの
 朝が訪れた夜を 幾重にもつつむ
 次の夜が とっくにはじまっていて





自由詩 風のシネマ Copyright soft_machine 2023-08-03 10:56:04
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