夏風邪
たもつ
天道虫畑の朝露に
濡れながら
もうすこしできる話が
あったような気がした
痩せ細った夏草の礼儀正しさ
わたしはすっかり
風邪をひいてしまった
少しずつでも構わない
そう思っていたのに
ビーカーの水溶液などにも
寿命があると知った
滑らかなプリンの質感
けれどそれは澄んだガラス製で
口に入る頃には
わたしのものなど
何ひとつとして無かった
わたし一人を残して
誰も乗っていない満員電車が
海岸線に沿って走る
囁きのように音が
薄く消えていく音
(初出 R5.7.29 日本WEB詩人会)