夏風邪
たもつ



天道虫畑の朝露に
濡れながら
もうすこしできる話が
あったような気がした
痩せ細った夏草の礼儀正しさ
わたしはすっかり
風邪をひいてしまった
少しずつでも構わない
そう思っていたのに
ビーカーの水溶液などにも
寿命があると知った
滑らかなプリンの質感
けれどそれは澄んだガラス製で
口に入る頃には
わたしのものなど
何ひとつとして無かった
わたし一人を残して
誰も乗っていない満員電車が
海岸線に沿って走る
囁きのように音が
薄く消えていく音




(初出 R5.7.29 日本WEB詩人会)


自由詩 夏風邪 Copyright たもつ 2023-07-30 07:18:42
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