二人酒[まち角20]
リリー

 十九時半は回っていただろう
 仕事帰りでもなさそうな洒落たポロシャツの中年男が
 客のまばらなカウンター席で飲んでいた
 そこは、いつもなら私の指定席だったのに
 
 仕方なく隣で
 梅酒ロックを傾けながら
 タコとタマネギのイタリアンサラダを楽しみながら
 揚げ出し豆腐を待っていた

 何気に見る彼のロックグラス
 角ばった氷と 未だ三分の一程しか減っておらず
 二皿がすでに食べ切られている
 
 カウンターへ肘をつきスマホ操作していた彼は
 立ち上がり
 私の背後を通るとお手洗いへと

 飲みかけのグラスの氷が溶けかけて
 こめかみに うっすら送られてくる視線の気配
 わざと気付かぬ素振りする私の声は明るく
 「お兄さん!柚子酒ロックね。」
 iPadへ目を落としながら
 残りを飲み干す

 彼は少しの間を置き
 ジャガイモの明太チーズ焼きを注文する

  (この人、よく来るのかしら?)
 二度と、隣席になる事も
 ないのかもしれない
 
 だけども今夜
 静かに飲む私に
 ちょっと色を添えてくれる彼を
 瞳の端がとらえる 
 ひとり酒
 
 
 
 
 
 


自由詩 二人酒[まち角20] Copyright リリー 2023-07-29 15:38:40
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