野球
ちぇりこ。

野球の音が聴こえる
野球をする音が聴こえてくる
誰もがみんな
胸の中に野球を飼っている
整備の行き届いた市営グラウンドから
夏草の生い茂る河川敷まで
球足の早いゴロが一 二塁間を
抜けてゆくように夏がきても
(わたしたちは決して
夏を手放さなかった
早朝の輝くプラットホームへ
シャッターの開かない商店街へ
栓の抜かれた学校のプールへ
外野を転々と転がるように
(わたしたちは決して
夏を見逃さなかった
神社の細い石段を駆け上がり
湿り気を帯びた風にあたる
紅潮した空間で
引っ掛けるとわかっていても
外角へ沈む球に反応する
ラッシュアワーは繁忙を装い
それが夏の比喩だとしても
空と地面しかなく
細胞分裂する
胸の地平から
野球をする音が聴こえてくる


自由詩 野球 Copyright ちぇりこ。 2023-07-27 21:31:31
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