裏路地
たもつ
裏路地、提携する眼
蔓延る窓
分裂する窓
その狭間で女は窓を拭き続ける
手にしたウエスは適度な温度を保ち
それはまた彼女の無口だった
無口の中には一人の海がいる
私と私たちはかつて
その海と会ったことがある
海は灰色の社屋の壁に
斜めにもたれ掛かり
重く深くうねっていた
裏路地では夏が澱んでいた
異臭を放つ吐瀉物は
もはや言葉ではなかった
その時女は自分の眼を拭いていた
眼はすべて窓で出来ていた
窓の内側には内など無く
彼女の外が広がるばかりだった
ある晴れた日、私と私たちは
女を見ていた
ふとした理由で世界中から窓がなくなった
それでも窓を拭き続けていた
夜中でもないのに
腕や手を振り払われ
私と私たちは慌てて
裏路地に住む幽霊の話を始めた
(初出 R5.7.16 日本WEB詩人会)