アップルパイ2[まち角18]
リリー
髪を上げてみよう
唇に紅をひき
新しい上衣を着て
お茶を飲みにゆこう
ポケットには何も
入っていないから
冷たい掌つっこんで
香り高い紅茶を飲みにゆこう
新しい上衣の匂いをかいで
紅茶の色をみつめてみよう
繁華街の路の筋入ると
外装のレトロな
ちんまりした名曲喫茶があって
カウンター席で
ハイヒールの脚を組んでみる
モルダウが好きだと知っていて
聞かせてくれるマスターに
目で感謝して
その日
一杯のお茶に
涙がこみ上げる
自家製の林檎煮の詰まったパイを
私はお上品に食べられず
口一ぱいに 頬張っていた
悲しみの遠のいた日
限りない思いに追いこまれて
動きの取れなかったのは夢として