アップルパイ2[まち角18]
リリー


 髪を上げてみよう
 唇に紅をひき
 新しい上衣を着て
 お茶を飲みにゆこう

 ポケットには何も
 入っていないから
 冷たい掌つっこんで
 香り高い紅茶を飲みにゆこう

 新しい上衣の匂いをかいで
 紅茶の色をみつめてみよう

 繁華街の路の筋入ると
 外装のレトロな
 ちんまりした名曲喫茶があって
 カウンター席で
 ハイヒールの脚を組んでみる

 モルダウが好きだと知っていて
 聞かせてくれるマスターに
 目で感謝して
 その日
 一杯のお茶に
 涙がこみ上げる

 自家製の林檎煮の詰まったパイを
 私はお上品に食べられず
 口一ぱいに 頬張っていた

 悲しみの遠のいた日

 限りない思いに追いこまれて 
 動きの取れなかったのは夢として



 
 


自由詩 アップルパイ2[まち角18] Copyright リリー 2023-07-17 15:47:40
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