めぐり来る夏
塔野夏子

アガパンサスの揺れる向こうから
夏の旋律がこぼれはじめる
空の青と光の白が
みるみるそのまばゆさを増してゆく
そこに君が居た
そのなつかしさは残酷なほどあざやかだけれど
でもそこはもう
通りすぎた場所

逆光の向日葵と蝉時雨
蝉時雨がふと熄んだときのひときわ濃い静寂
君と居るならばおなじ夏が
何度でもめぐり来ると信じていた日々の宝石
でもそこはもう
通りすぎた場所

絢爛たる雲の城を仰ぐ
遠雷が聞こえる
そういままた夏はめぐり来たけれど
ただ君はかすかに微笑む
たぶん僕もおなじように微笑んでいる

そこに君は居た
そこに僕も居た
虹が ながい夕映えが僕らを染めた
でもそこはもう
通りすぎた場所

これからそれぞれにまた
あざやかな夏を数多織りなすだろう
でもそこはもう
戻れない場所



自由詩 めぐり来る夏 Copyright 塔野夏子 2023-07-17 09:07:19
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