リルケさん
soft_machine

 チーズケーキなんかなかった
 ほんとうはトーフ(チーズのせ)だった
 ワインじゃないこぶ茶

 テーブルの夜を醤油で食べたくなった
 痩せた蝙蝠がいて
 壁のすき間で乳離れをはじめた
 赤い瞳ですらなく
 わさび味
 ねつ造風
 何でもいいのだが

 むかしミルクだったチーズはどことなく侘しい
 トーフは豆だよ
 作り方は忘れたよ
 あらゆる一方通行で
 ライナー・マリアと唱えてはみたが
 研ぎ澄まされた痛みとやらが
 突き刺さるはずもなく
 ただなんとなく
 窓のむこうに立てかけた
 かつてすべり台だった石板に浮かぶ
 月のなみだを盗みながら
 つめたい酒を
 絶え間ない苦みと飲み干した

 リルケさん
 あんたの罪がこんなにも美しいから
 こおりが割れる度ひかりは集められ
 リルケさま
 あなたの死がいつまでも夢を見る
 夜、あらゆるいのちが
 よみがえり
 人に虚しくされたすべてのねずみも駆けまわる空が
 きっと見つかる

 そういえば
 彼もねずみ年なのだった
 あした、朝
 ミルクとコールドチキンになる





自由詩 リルケさん Copyright soft_machine 2023-07-12 20:11:18
notebook Home 戻る