燃えかすたち
◇レキ

死の隣の鮮やかな生を知る人達の
凄みのあるあっけらかんとした笑いをもらった
なにもお返しできずに帰る

生きている不思議と不安の中でシャワーを浴びる

当たり前に続く日々、その偶然に
心配しすぎても仕方ないと思いながらも

でもわかんないな未来
今日、知人に会えた幸せ

どうか明日も何気ない
人臭くも美しい消費と再生が続きますように





その日は珍しく夜更かしの子供
秘密の暗号かくかくしかじか
明日には彼にだって何書いてあるかわからない

遠くからけだるそうにかえるの鳴き声
釣ったかやから思い出したようにそよ風が流れてくるよ

子供は
食べ続けなければならない悲しみを
しょっぱい暗号にして掌に乗せて
ふっ、と吹いて飛ばしているよ





少しの炭酸の甘いジュースを
夜にこっそり飲む子供

言いようのない不安をすっぽり闇が包んでいる


状況全部に
追いつこうとしなくていいから

死を拒むないつかは誰でも死ぬ
受け入れていくしかないのだから





生まれた時からすべて受け入れられていた
ねじれていようと病気だろうと
自意識過剰で狂っていようと
どんな自分であれ
人は生まれた時からすべて受け入れられているのだ

吐き出される主張は全て受け入れられるのだ
それが生きる事なのだ

怠惰な日々に窒息しそうだ
吐き出す息すら失って

やることなくて吐き気がする
えずいてもなんも出てこないけど





全部妄想だったんだ

今までの生きづらさ
幻覚幻聴幻臭幻触
過度な自意識過剰

ありとあらゆるものの見方……

全部落とし物のつもりでいたけど
捨てるものだったから落ちたのだ

ああ、始発駅に立つ





昼寝

蒸し暑さの隙間から
じわじわと蝉の鳴き声が
染み出して溢れてくる

忘れたい過去ばかり浮かんでくる
恥ずかしさに耐えかねては
呻いてしばし身体を折る

何故苦しみもないのに
呼吸するように詩が書けるのだろう

全部無かった事にして過ごす
全部無かった事なのだ……

そっと小さく過ごす
誰に見られているわけでもないが
自主的服役のつもり

煙草の煙の無性に嗅ぎたくなる

夜じゅう扇風機をつけている

嵐の夜に猫が鳴いてる





くすぶっている?
くすぶる事すら忘れた
生気の火種はすっかり消えた

何も実らない?
毎日毎日種植え忘れて水をやる
虚空に向かって虚ろな瞳で笑う

泥の海に音もなく穏やかに溺れる

今日もとってもいい天気だなぁ





少年の心はぽっかり空洞で
たまに隙間風が吹いてきりきり痛むのだ

呻いても歯ぎしりしても
のたうちまわっても治らない

それは過去の過ちがうずくから

それは今の惨めさが嘆くから





魂は魂だけだと抜け殻なのだ

時間をかけて磨いた
他の余計な美しいものたちや

努力のスッとした立ち姿
その他もろもろによって

初めて魂に色が付き
炎を燃やし始めるのに

少年がそれに気づく頃には
時間はすっかり灰になり
魂だけの魂が
汚い部屋のその辺に
干からびて転がっている





実は一つ
ある日天から降ってきて
どちゃりと地面に落ちて
鳥に食われる事もなく干からびる
残ったのは大きな後悔の種

それは
乏しい土壌と
不安という雨
世間という無慈悲な陽射しに
応えるように芽を出す

後戻り出来ない失敗の反芻は肥料になり
後悔はすくすくと育つ

肥料の効果が切れた頃、心は鈍化して
やがて寂しげな笑顔のように花を咲かせ
ため息という実をつける

後悔は枯れ果て
当たり前によくある
諦めという空虚な絶望になる





2ページで終わってしまった落書きのような物語の
残された多すぎるページにあとがきを書き続けながら
それはそれは丁寧にまずいトマトを育てる日々

腐った泥団子毎日食べている
届かないと知りながら天窓から見える月
窓が風でガタピシなるのが怖い

焼けてしまった
過去の可能性の灰を
手にとってはこぼしを繰り返す





平べったいサンダル履いて
水たまりをべちゃべちゃ歩く

一つ願いが叶うなら
文化祭で会いに来てくれた誰かもしれぬあの子に
何もしゃべれなかったことを謝りたい





薬でぼやけた綺麗な夕日を
久しぶりにリトマス試験紙で測ったら
苦しみと書かれていた

僕の真後ろには
真っ黒な穴が空いていて
歩けども歩けどもついてくる

この社会に自分をすり合わせるために
皆は病的な部分を持っている、補うために





猫と一緒に寝るように
無意味で根拠のない希望に
手放しで心を預けることにした

愛すことなら簡単だ
ただ自身の心を少しづつ砕いて
その痛みに悲しく微笑めばいいのだから

愛されることは難しい
僕の心の穴をわざわざ誰が埋めに来る?
僕は人それぞれの魅力である「自分らしさ」すら
忘れているというのに





僕はどうしてどろどろで
這いつくばって生きているのだろう
ある日気づいた
太陽に射られて
四六時中八つ裂きにされているからだ、と

それでもなお生きなさいと
太陽は笑う






叫び出したくて
死にたくて

生きているだけでも
とても返しきれない受け取りがある

僕みたいな
凡人以下のゴミが
皆に紛れて息をしていることとか

言葉足らずが這いまわる

犬の遠吠えが聞こえる


自由詩 燃えかすたち Copyright ◇レキ 2023-07-09 02:18:23
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