燃えかすたち
◇レキ
死の隣の鮮やかな生を知る人達の
凄みのあるあっけらかんとした笑いをもらった
なにもお返しできずに帰る
生きている不思議と不安の中でシャワーを浴びる
当たり前に続く日々、その偶然に
心配しすぎても仕方ないと思いながらも
でもわかんないな未来
今日、知人に会えた幸せ
どうか明日も何気ない
人臭くも美しい消費と再生が続きますように
※
その日は珍しく夜更かしの子供
秘密の暗号かくかくしかじか
明日には彼にだって何書いてあるかわからない
遠くからけだるそうにかえるの鳴き声
釣ったかやから思い出したようにそよ風が流れてくるよ
子供は
食べ続けなければならない悲しみを
しょっぱい暗号にして掌に乗せて
ふっ、と吹いて飛ばしているよ
※
少しの炭酸の甘いジュースを
夜にこっそり飲む子供
言いようのない不安をすっぽり闇が包んでいる
状況全部に
追いつこうとしなくていいから
死を拒むないつかは誰でも死ぬ
受け入れていくしかないのだから
※
生まれた時からすべて受け入れられていた
ねじれていようと病気だろうと
自意識過剰で狂っていようと
どんな自分であれ
人は生まれた時からすべて受け入れられているのだ
吐き出される主張は全て受け入れられるのだ
それが生きる事なのだ
怠惰な日々に窒息しそうだ
吐き出す息すら失って
やることなくて吐き気がする
えずいてもなんも出てこないけど
※
全部妄想だったんだ
今までの生きづらさ
幻覚幻聴幻臭幻触
過度な自意識過剰
ありとあらゆるものの見方……
全部落とし物のつもりでいたけど
捨てるものだったから落ちたのだ
ああ、始発駅に立つ
※
昼寝
蒸し暑さの隙間から
じわじわと蝉の鳴き声が
染み出して溢れてくる
忘れたい過去ばかり浮かんでくる
恥ずかしさに耐えかねては
呻いてしばし身体を折る
何故苦しみもないのに
呼吸するように詩が書けるのだろう
全部無かった事にして過ごす
全部無かった事なのだ……
そっと小さく過ごす
誰に見られているわけでもないが
自主的服役のつもり
煙草の煙の無性に嗅ぎたくなる
夜じゅう扇風機をつけている
嵐の夜に猫が鳴いてる
※
くすぶっている?
くすぶる事すら忘れた
生気の火種はすっかり消えた
何も実らない?
毎日毎日種植え忘れて水をやる
虚空に向かって虚ろな瞳で笑う
泥の海に音もなく穏やかに溺れる
今日もとってもいい天気だなぁ
※
少年の心はぽっかり空洞で
たまに隙間風が吹いてきりきり痛むのだ
呻いても歯ぎしりしても
のたうちまわっても治らない
それは過去の過ちがうずくから
それは今の惨めさが嘆くから
※
魂は魂だけだと抜け殻なのだ
時間をかけて磨いた
他の余計な美しいものたちや
努力のスッとした立ち姿
その他もろもろによって
初めて魂に色が付き
炎を燃やし始めるのに
少年がそれに気づく頃には
時間はすっかり灰になり
魂だけの魂が
汚い部屋のその辺に
干からびて転がっている
※
実は一つ
ある日天から降ってきて
どちゃりと地面に落ちて
鳥に食われる事もなく干からびる
残ったのは大きな後悔の種
それは
乏しい土壌と
不安という雨
世間という無慈悲な陽射しに
応えるように芽を出す
後戻り出来ない失敗の反芻は肥料になり
後悔はすくすくと育つ
肥料の効果が切れた頃、心は鈍化して
やがて寂しげな笑顔のように花を咲かせ
ため息という実をつける
後悔は枯れ果て
当たり前によくある
諦めという空虚な絶望になる
※
2ページで終わってしまった落書きのような物語の
残された多すぎるページにあとがきを書き続けながら
それはそれは丁寧にまずいトマトを育てる日々
腐った泥団子毎日食べている
届かないと知りながら天窓から見える月
窓が風でガタピシなるのが怖い
焼けてしまった
過去の可能性の灰を
手にとってはこぼしを繰り返す
※
平べったいサンダル履いて
水たまりをべちゃべちゃ歩く
一つ願いが叶うなら
文化祭で会いに来てくれた誰かもしれぬあの子に
何もしゃべれなかったことを謝りたい
※
薬でぼやけた綺麗な夕日を
久しぶりにリトマス試験紙で測ったら
苦しみと書かれていた
僕の真後ろには
真っ黒な穴が空いていて
歩けども歩けどもついてくる
この社会に自分をすり合わせるために
皆は病的な部分を持っている、補うために
※
猫と一緒に寝るように
無意味で根拠のない希望に
手放しで心を預けることにした
愛すことなら簡単だ
ただ自身の心を少しづつ砕いて
その痛みに悲しく微笑めばいいのだから
愛されることは難しい
僕の心の穴をわざわざ誰が埋めに来る?
僕は人それぞれの魅力である「自分らしさ」すら
忘れているというのに
※
僕はどうしてどろどろで
這いつくばって生きているのだろう
ある日気づいた
太陽に射られて
四六時中八つ裂きにされているからだ、と
それでもなお生きなさいと
太陽は笑う
※
夜
叫び出したくて
死にたくて
生きているだけでも
とても返しきれない受け取りがある
僕みたいな
凡人以下のゴミが
皆に紛れて息をしていることとか
言葉足らずが這いまわる
犬の遠吠えが聞こえる