静かな山[まち角12]
リリー
にぎわう児童公園に
一人やって来た その子
砂場の隅っこにしゃがむと山を
つくりはじめる
子連れの大人は
見知らぬ子だから声を掛けてみるが
自分のつくり始めた山に夢中なその子の
耳には届かず
大人は暫く見おろしていた
やがてその子は立ち上がり山を置いてフラリと
姿を消した
何日かしてまた その子は現れ
公園の騒めきに背を向けて砂場で山を創りはじめる
いつかの子 だと
気付く大人は傍へ歩み寄り今度は
その子の山を見ることにした
そして一言だけ声をかけてみる
すると砂を握る小さな手が止まった
大人を見上げずに山を見て
レフトラインへ砂を加えると何度もその箇所を
丁寧に押さえる
山のかたち は、一層なだらかな曲線を描き
まるで真昼の森の木漏れ日で
生きものたちが逞しく天上の楽の音の様に地球と
触れ合っているのだろう
緑の山が見えてきて
大人の眼は無心に山を創り直し始めた
その子の鼓動を、見つめるのだ