六月の寡黙
ただのみきや
ネズミにかじられた日々
錆びた釘
二階の楽園から逃げ出して来た蝶がテーブルにとまっている
青い翅に書かれた詩
息と息の間の甘い舌のもつれと苦い錠剤の散弾が
古いR&Bのむこうとこちらを煙のように行き来する
わたしは花散らす風 翼の生えたナイフ
口をふさがれて耳元でささやかれ
青白い鈴は静かに転がった
わたしの闇路を奥へ奥へと
一行のことばが一本の卒塔婆となるところ
手折られた秘密の最後の匂いに誘われて
風に記憶はなく
ただ感情だけがある
飾り気のない白いブラウスを着た女が
指の足りない左手で野生馬の鬣を梳くように
目隠しのまま 六月はこだまする
灰皿で燃やされた蝶の鮮烈と共に
(2023年6月24日)