廃家[まち角8]
リリー

 地元走るローカル線を
 無人駅で降り
 山裾へのぼる細い道で足を止める
 通りすがりの一軒家

 枝葉被った鉄の門
 奥には木造の二階建て
 厚地なカーテンひかれたままの窓
 
 縁側に手入れされず無造作に茎を伸ばす
 バラが一株

 春よりも小さくて
  春よりも数なくて
   春よりも短くて
 その一株が

 春よりも一しお白く鮮やかに咲いている

 音のない昼間の
 本当のささめき
 声のない物語が
 空間を 圧する

 一株の薔薇の白に、私は
 詩人の描く一冊の絵本を手にした様な
 その表紙を
 そっとめくってみたい衝動にかられた



自由詩 廃家[まち角8] Copyright リリー 2023-06-18 13:03:54
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