廃家[まち角8]
リリー
地元走るローカル線を
無人駅で降り
山裾へのぼる細い道で足を止める
通りすがりの一軒家
枝葉被った鉄の門
奥には木造の二階建て
厚地なカーテンひかれたままの窓
縁側に手入れされず無造作に茎を伸ばす
バラが一株
春よりも小さくて
春よりも数なくて
春よりも短くて
その一株が
春よりも一しお白く鮮やかに咲いている
音のない昼間の
本当のささめき
声のない物語が
空間を 圧する
一株の薔薇の白に、私は
詩人の描く一冊の絵本を手にした様な
その表紙を
そっとめくってみたい衝動にかられた