メルヒェン[まち角7]
リリー

 ある人を喜ばせる役目を終えて
 そのメルヒェンを忘れ果て
 路上に居る様には見えなかった
 マスコットキャラクターの小熊

 目的のある足は目も触れず通り過ぎて行く歩道で
 しゃがみ込んで拾うと 掌にコレの
 身にそぐわない重みがあった
 昨晩 耳にした鋭い雷鳴
 部屋の窓から見た路面打ちつける雨がよみがえり
 ここで仰向けのまま夜を明かしたに違いなかった

 歩道沿いには雨除けになる場所も見当たらず
 心細げに こちらを見る様な
 瞳のまわりを指先で撫でて
 ハンカチで包み
 ショルダーバッグの内ポケットへ収めた

 そして出勤した私のデスクの隅っこで一日座る小熊

 昼過ぎから再び本降りの雨をもたらした雲は
 夕刻時なると薄れ
 手に取った小熊も乾いていた

 蛍光灯で その黒い瞳に
 誕生したばかりの星の瞬きの様な光の粒がくっきり
 浮かんで見えた

 


自由詩 メルヒェン[まち角7] Copyright リリー 2023-06-17 12:32:47
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