南の果の岬
リリー

 
 
 既に色褪せて重たく落ちている花片を
 踏みながら歩む林の中は
 もう黄昏ている

 椿林の木立
 わずかな隙間から
 聞こえる波濤のどよめき

 腰をおろしてみなさい
 湿っぽい土の下から
 遠く渡って来た潮の
 たどりついた疲れのにおいがする
 だから
 椿があんなに
 木から落ちたとたん色褪せるのだ

 風の匂いをかいでごらんなさい
 南の果ての風はどんなに
 なつかしいか
 それは疲れた嘆きの香がするからだ

 椿林の下の小径を一人歩いてみなさい

 鳴っている
 うごめく大気にすいこまれるような
 この生暖かい骨肉の確かな鼓動が、

 波
 風
 そして椿の林
 ここが四国の南端なのだ

 
 


自由詩 南の果の岬 Copyright リリー 2023-06-17 06:53:34
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