Overlap
塔野夏子
そして私は迷い込む
静かな五月の夜
輪郭を失くした処に
複流し
伏流する時の中で
淡くオーヴァーラップするのは
私の意識と
君の意識か
(私とは)
(君とは)
谺のように出会う
輪郭を失くしながら
彷徨う
静かな五月の夜
薫る風の遠くで
泉のように湧きだすおびただしい貌
の中から
(君は)
(私は)
どれを選ぶ
たちどころに時は還流し
谺のように出会う
此処では 見ることは
触ることと ほぼおなじ
楔に打たれた記憶が
啼いていても
かなしみと名づける前に
ためらうことで
紡がれてゆく輪郭が
淡くオーヴァーラップして
(私の)
(君の)
そしてまたほどかれてゆく
漂う五月の夜が
薫る風を六月へと
送りゆくにつれて
ひらいたりとじたりする
時の瞼のもとで
谺のように出会う
(君に)
(私に)
雨のように降るおびただしい貌
の中から
選びながら
選ばれてゆく
その果てしなさに
けれど微笑みながら
輪郭を失くした処で
淡くかさなりあうのは
君の手と
私の手か