ダムド・ライフ・シカエルボク
ホロウ・シカエルボク
自家中毒のなれの果て、日常の澱の中で、粘着いた息を吐きながらのたうち回る断末魔の蛇のような精神世界、床に食い込んで剥がれた爪に赤い軌跡が続いている、服毒に似た衝動、あらゆる歪みの中で、真直ぐな線こそが逆に忌わしく見える、叫びは内臓に食らいつき、命は常に喀血のような鮮烈さと代償を求める、俺は傀儡になったのだ、詩情という化物の…ギロギロと眼は次の犠牲を探し、呼吸は浅く、といって心は奇妙なほど静かに、道化ほどに言葉を撒き散らす俺を黙って見つめている―自ら選んだ行だろうと―ああ、その通りだ、俺は初めから分裂していた、年端も行かぬころからこの胸の内に、内なるものの目玉を、視線を感じて生きていた、透明な存在、なんていうのが90年代からの流行かね?そんなことは知ったことじゃないが…感情はいつでもそいつの背中に隠れていた、喜怒哀楽のすべてに、俺はいつでも自分自身の嘘を見続けていたのさ、何かが違う、何かがずれている、あえて言葉で言うとするならばそんな感覚が常に脳味噌を突き続けていた、それはまるで飢餓のようだった、それが何か知りたかった、でもそれを知るための材料はあまりにも少なかったし、俺自身の経験値も足りなかった、まるですでにある一生の記憶のせいで、幼さや若さを無邪気に楽しめないような、そんな思いに支配され続けていた、それでも努力したんだ、それはそれ、これはこれ、ひとまずは自分が押し付けられたものを片付けていくしかないんじゃないかって…もちろん上手く行かなかったさ、そんなものに時間と労力を注ぎ込んだこと自体間違いだったんだ、俺は初めから、自分が行きたいと思った方向に向かって走るべきだった、でも、だけど―決断が出来る人間はある意味で成長しない、もしももう一度同じ道を歩けるとしても、俺はまた同じような人生を生きるに違いない、自分と、自分じゃないものとの誤差、断層…溝―小さなころから、本当にガキの頃から、ずっと、俺はそんなものを見つめて生きてきたんだ、情報が必要だった、自分を知るために…多分、そういうことなんだろうさ、周囲を、社会を、世界を認識すること、自分を軸とした半径数メートルの中で、起こっている出来事を見続けること、それがどういうものなのか考えること、自分がそこに入り込めるのか、あるいは素通りするべきなのか、ひとつひとつ手に取って考えること…そうして俺が自分自身として生きれば、俺の人生は早くから破綻してしまうだろうということに気付いた、だから、付かず離れずの毎日を送り続けたのさ―もちろん、若者らしいことだってたくさんしたよ、でもいつだって、どこかで無理をしていたんだ、俺はそんな人間じゃない、でもいまは、ここに居なけりゃいけないんだ…思えば俺は、確実にいま自分が出来ることについて考えていたような気がする、目標足り得るものはなにも見えてはいなかった、でも、どこに向かえばいいのか、それだけはかろうじてわかっていたような気がする、そして俺はいつからか書き始めた、それは自分をとんでもないところへ連れて行くだろうとわかっていた、とんでもないものを背負うだろうことは…でも、だけどさ、混沌から逃れてしまったら人間はもう幾つかのプログラムに沿って動くだけの別の生きものになってしまう、俺はそんなものになりたくなかった、歳を取って、少しずつ壊れ始めてるいまだってそうさ、混沌に背を向けちゃいけない、それは、自分自身から逃げ出すようなものだ、命を持ち、心を持って生まれてきたものは必ず、混沌の中に身を置かなければならない、その中に在って初めて、己というものを考えるのだ、だからこそ人は壊れたがる、誂えられた真実の中に価値ある者など無いと本当は理解しているのさ、俺は狂い続け、壊れ続けることを選んだ、だからこそいまでも書き続けることが出来る、世界なんて嘘さ、どこにもないのさ、存在しているのはいつも、俺の詩情だけなんだ、わかってくれなんて言わないよ、俺が欲しいものは理解なんかじゃない、俺の真実を、俺の真理を、畏怖のように見つめてもらいたいだけなのさ、人に染まり、人の世に染まり、その中で血を流し、誤差を見つめ…悟りを得るんだ、それは瞬間だけのものだぜ、悟りなんて嘘さ、ある時、ほんのちょっとのタイミングで、わかったような気がするだけなんだ、嘘を信じ続けるのさ、俺の魂は必ずその中で蠢いている、人の一生が教義や哲学や社会だけで片付くものなら、人間なんてとっくの昔にみんな化石になってるさ、僅かな人間が歌い続けてきた、僅かな人間が叫び続けてきた、この命を繋いでいるのはそんな人間たちの紡いできたものの延長線上にしかないんだ、俺を見ろ、俺は嘘だ、そして―生き続けている。