アイボリーの椅子
あらい

やっぱり微笑っている、ヒト。
肩が震えたあとで/羽根が生え落ちたときに/ここに滑り込んだのだと。
閉苑間近の映画館の待合室のゆったりとしたソファーで(今震えている。)
冷ややかな水族館で/賑やかなネットスーパーで。黙って。私を私として、
受け入れてくれるからそれだけで好きでありました。

さざなみにたうたう、なら、こちら側に奔り過ぎませんようにと、足も指もない
口だけの雑想が手まねいています。タマシイを置き去りにして私は私を求めて歩
いています。まわりからヒトもビルも山も土も置き忘れてしまえば、私は私とし
て私を認識できなくなるのでしょう。

瞳に映るわがままな手、泥臭い足、白くブヨ付いた躰を水底から引き上げる瞬間、
漏れ出した嗚咽が、そのうちがわから垂れ流した啼泣になりました。だれも振り向
かないし通り過ぎていくばかりで、擦り抜けていく光も闇も、灯花した甘さで、頬
に手を置いて肘をついて、ぼんやりとみているだけなのです。

スプラッタ栄華の幕間にある、この無声劇の感激、いまピンホールカメラの風切り音
(みみもとで囁く)目眩が引き起こした白昼夢に。 体ごと引きづられ ほらそういっ
たオヤスミなら誰も咎めないもので 堅い長椅子に随分座り、そこに(あいぼりーが)
ただそこにあり、蟻でも潰してやろうかと認めている。

居るのだろうと思っていれば、それで好いのだろうと深く沈み込む。
長々、烙印を背に、ひとり粉クソにウケている。さみしいヒトが、
個々に、たくさんいらっしゃる、ところだ。

2023-03-24


自由詩 アイボリーの椅子 Copyright あらい 2023-06-05 18:07:29
notebook Home 戻る