リリー

 いく本かの 樹が
 チロチロ陽を洩らす太い枝に一羽きて
 また二羽が来る
 小さな頭を左右に振って
 最初にきた小鳥が身を投げ出すように低空飛行
 今し方 私達が登って来た細道へ向かう
 緑深き陰へ視線もどすと
 二羽の姿も消えていた

 薄い
 芒莫とした風に 香る
 アイスティーの輪切りレモン
 ストローで突っつくと氷が涼しい音を立てたグラス
 「私は好きやけどなぁ。」
 もう一度アキさんに呟いてみる私の指先が
 摘み上げるレモン

 同僚と観光案内の情報で
 ここには寄ろうと決めていた
 尾道の坂の途中にある喫茶店『梟の館』

 「いや、分かるけど。どこがいいの?」
 再び たずねる彼女の眼が笑う
 それを見る私の唇は
 厚切りなレモンの皮を挟み、挑む様に齧る
 実を吸いまくった時の うすら苦い味

 彼はまた別の課の若い子へ想いを寄せているらしい

 慰安旅行や飲み会でいつも
 おどけて見せて
 彼の隣へ座りに行くようになった私は
 そんな事しか出来ない年上の女

 
 
 
 


自由詩Copyright リリー 2023-06-04 20:17:36
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