向こう岸
Giovanni

5月28日
黒いペンで書かれた
カレンダーのさりげない予定
几帳面な字

その翌日
あなたは
日めくりの裏のような
真っ白な予定の永遠に続く
向こう岸へと
踏み出してしまった

何にも
言ってくれないで 
こんなに急に
行ってしまうなんて

灰になった体は
とても重かった
落とさないように
ゆっくりと
激しい雨の中歩いた
涙で揺らぐ視界の向こうに
ゆらゆら歩く
あなたが見えた気がした

背の高い
ほっそりした体
眼鏡の奥にある
優しい瞳
微かに漂う
焼酎の匂い
僕の名前を呼ぶときの
凪のような優しい声

ちきしょうめ
ちきしょうめ 

もっと もっと
伝えたいことがあった
話したいこともあった
返したいこともあった
謝りたいこともあった

あったのに

あなたは
残された僕たちに
向こう岸を忘れずに
大事な人に優しくな
そう伝えてくれたのかもしれない
ああ うん きっとそうするさ

「生きのこるものはずうずうしく」
古い詩人のことばを
何度も何度も反芻しながら
大雨で錯綜する新幹線に乗った


自由詩 向こう岸 Copyright Giovanni 2023-06-04 04:44:40
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