寓話
リリー


 電線に冬の風がやって来た夜
 その女と逢いました
 赤い上衣も黒いスカートも
 くたびれて見えました
 デブッチョの男の腕にすがりながら
 女はキャラキャラと笑いつづけていました
 デブッチョの男は その女の瞳の中に
 多分慾情だけをみていたのでしょう
 嬉しそうに威張った様に女を抱いて
 細い露路に消えました

 私は女の背中が 妙に気になりました
 笑っていた 女の顔とあまりにも違いました
 遠い黄泉の国への憧れだけで
 足を運んでいる人の姿はあれだと
 段々確かに思いこみました

 どの位か 私はそうして立って思い続けていました
 不意に一人の男が私の腰を抱きました

 今夜だけ 慰め合う必要のある人間同士ですね。
 
 男の顔をみあげると暗い光のある目が 
 私を縛りました
 私の背中が あの女と同じだったのかも知れない
 
 背高く立ったその男と私の魂とが仇同士の様に暗い火花を放ちました
 
 


自由詩 寓話 Copyright リリー 2023-05-22 15:58:16
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