ワンカット
リリー

 背筋を伸ばして立つ
 その人の目は前方の二番ホームがある背景へ
 据えられている様に見えた

 腕まくりされたワイシャツ
 右手が口へ運ぶ平たくて長いパン
 大口でかぶりつき頬張って噛む、を繰り返すその人
 顔のパーツ大きくて 
 何かを 思い耽る様子の目元は
 歌舞伎役者か舞台俳優に似て見えてくる

 食べ終えると物の入っているコンビニのビニール袋へ
 飲みかけのペットボトルをしまう
 その人は 車輌に乗り込んだ私の目の中で
 小さくなり見えなくなった

 午前七時三十七分発 JR普通電車を待つ私
 足元は白色七番三角印を少し下がって立つ
 三番ホームに今朝は現れた その人も
 私から左斜め向かいのいつもの位置に立つ

 あの日以来その人の立ち食い姿を見ることはないけれど
 五分間の誤差で行き違う二本の電車
 それを待つというだけの、
 二人の「立ち位置」がそこにはある。
 
 


自由詩 ワンカット Copyright リリー 2023-05-14 11:39:55
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