夜陰
あらい

蒸発すら叶わない人魚の
鱗のようにある
湖が 
荒々しい海辺の
あの夏の終わりの、
へたくそな絵を描いて
ただ鏡越しに私の真似をしている

異国のおんなが
白い蝋燭をひとつ灯して
のぼせるようなすがたで
中空を漂っていた。

意識はそこから
黒い影をくねらせ、
走り去る前の地下鉄の香りが、
こちらをじっと見てるような
芯のひとつだけ芽を出し
パッケージングされた
死に化粧の口づけに
瑞瑞しい素肌を咲くと

それは消化されるまでの
白波だけが
音を反射させ 岩礁に叩きつけられ、
死んだはずの異体が、目をしばたたく

寒々しく凍っている、
うっすらと見えるこのひかりが、
なくなってしまったよに、擬態して処る


自由詩 夜陰 Copyright あらい 2023-05-10 21:08:00
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