あわい
あらい

そのときの香りはありましたか? 
         周りにはなにがあったのでしょう、
                   どこかきこえやしませんか――
花の名前を忘れてしまったのです。 
多分花だと思うのです。
       けれどトランプのカードを切りました。    
                      そして裏にかえして、
                いまは表からそれを眺めています

――コーヒーは一口、躰をあたためましたか      
        ブランデーは上澄みに注ぎ込まれましたが
           冷たく生々しい感覚が 命を臨んでいましたから

暗幕を持たない不知火が、それにしてもと続く
  まごついた泡が駄目になるのを ほらみたことかと反転する
    真相を失くしたものはもともと幾何学を閃光させ
      それでも大きく唸ることはない。
胸の内に飼われるハイエナが聖獣と戯れては、
       焚き付ける塵や埃に眩しては。
       燻る幼さが照明となり無垢な夜想曲と造形はわずかに
  針を掻き、撓らせる玄を希花ノゾカせました。
                       
      彼方はだあれ。 と空を懐ってみましたが                   
    彼方はなあに。   と海を想ってみましたが                    
      彼方はどこへ? 泥と転がしていたのです

    差異はふと過ヨギるばかりのものと 逃げ出すように
 坂道を落ちてしまいます。上から下へと、緩やかなカーブを描いて、
見上げてみても何もかもが遠い。弓なりの月が私を眺めていきます。

                      ただそんな気がするだけ、
                     夜はなにもかもが悠く緩く、              
ト:雪渓はかえりみて、            近づいてきましたとさ。
  あざやかさと埋め合わせて  

描かれた黄昏色の向日葵はきっと雑踏と彼方に かすかにあおいのだけど。

ト:囃した過美を選集に銜えた。      磨り潰した夏に――与アタエリ

煮沸された巡瑠璃メグルリに刮げ落とした、愚痴の一つでも 保たせられれば 
                    「吁 ナントモ、可ヨいのに。」

指から刃が栄え 御前の芽を潰す、
にばっこい涎が、茹だりゃ、ピンと張る
弦のシナリオが旋律で託カコったのです。

           〈花も すべても かれて しまったことです。〉

首をもう、二度とふりかえしました。
そう最期にもう一度だけと応えます、と――
             「土の上に咲いていたのです、ジョーカー。」

早口で腹の薄い妊婦はかるく投げかけます、
それがプランターだったか、
野山にあったのか、
遊歩道に飾られたかは、忘れてしまいました。
                    ね、
                    ただ軽く拾い上げられるほどの
、手荷物をおろしてしまえばいいのに、背負った分だけいくらかヒトらしく
 腰が曲がっていく。よろけたぶん、臍ホゾが締まる。見え透いたところ、
 いくらか銭を置き、いいきぶんだろう と、今 みちのさなかに、あわい。


自由詩 あわい Copyright あらい 2023-05-08 18:38:20
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