音楽を解っていない
為作

僕は音楽を解っていません。
音楽を客船に例えるなら、僕は乗客です。
船員ではありません。
下っ端の船員だって、船長の話す言葉の意味が解るというじゃないですか?
船乗りには船乗りだけに通じる共通言語があるのです。
その言語を理解していない僕は、実は音楽をやっているようで、
音楽を理解していません。

僕は船の中で歌います。ネットやテレビで感じた、
又は実際に訪れた土地のリズムを取りながら歌います。
今に歌詞の内容なんか問題ではありません。

目の前に、E9+(9)(4)というコードがあります。
先程お話ししたように、
僕は音楽に通じる言語を解っていないので、
ギターの指板に張った弦のフレットを追いながら、
ひとつふたつと数えます。
Eから数えて13個目の音を探しに向かい、
今度は違う船に乗って、再びレストランで歌うのです。
そんなとき、観客にとっては、
船員の言語なんてどうでもよくて、
それよりも僕がリズムを感じると、
皆も愛するように体に流れる血を辿り、
故郷を探す旅を始めるのです。
ほら、あの人はテーブルの足を叩き始めた!

このように、僕は音楽を解らないまま、音を奏でて生きています。それが僕の生きる道だし、僕が音を奏でて生きるにはアルバイトをして生活を補う必要があります。これからもこの道の上で死ぬまで生きるつもりです。

今、南フランスのヒターノが書いてくれた、
マイウェイという曲のコード譜を見ています。
このコード譜はフランスの原曲や、
フランクシナトラが歌っているマイウェイとは異なります。
殆どに9が付いていて、
なんだか9を響かせる為に
ドレミファソラシドが在るような気さへします。
そこで実際にギターで鳴らしてみると、
あれ?どこか懐かしい音色がします。
きっとこれは過去にヒターノ達が歩いてきた
道の傍らにいつも有った音なんだなと思いましたし、
又、懐かしいと感じた僕の現世の体は今は日本人だけど、
血は混血しているなと思うのです。
自分の血のことを思うと少し窮屈な気分になります。


自由詩 音楽を解っていない Copyright 為作 2023-05-06 18:41:06
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