きが
やまうちあつし

木が
出勤する
細長い体を折り曲げて
平べったい車のアクセルを踏む
木が
押印する
枝のような指と指の間に器用にはさみ
重要書類にぺたり、と押し付ける
木が
驚愕する
予想外の出来事は
何度でも生じる
こんなことならあの公園で
突っ立っていたほうがまだましだった
木には木の絶望があり
木には木の希望がある
木の中を巡っているのは水だけではない
赤い血液だって流れている
木が
呆然とする
戦争と平和の狭間で
憎悪と友愛の狭間で
できることがあまりない
それは自分が木であるからか
それとも世界が
そのようにできているからか
あるとき
発芽がある
木の枝の先っぽに
ちょうどそのとき
木は近所の小学生の
通学指導をしていたのだったが
旗を振りかざす右の手の先端に
白い蕾がちょこんと芽吹く
黄色い帽子を被った小学生が
それを見つけて指をさす


自由詩 きが Copyright やまうちあつし 2023-05-01 07:31:32
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