完備 第二詩集『mirage』
完備 ver.2

contents.

WE
  ・self-similar
  ・sea
  ・lemon

MYSELF
  ・imaginary
  ・gospel
  ・reverse
  ・twilight
  ・gospel

YOU AND I AND
  ・liquid
  ・wave
  ・trace

SONGS  



++ WE ++++++++++++

  self-similar


きらきら! 布団にくるまってOPきいてた。いきてた? にせんじゅ
うなんねん、へーせー、なんねん? なんでやねん! ガハハじゃね
んじゃ、ひとりだった、ひとりだった、まぶしかった、「ひかりちゃ
ん」。南向きの部屋、畳から、カビの臭いが立つ。タニシしかいない水
槽に正しい姿でわたしいた、たぶん、おったとおもう。「窓際に置くな
よ」「死ね」「おまえが死ねカス」「ブス」「死ね」。言う? ゆう。言わ
れる? ゆわれる。自分で? 自分で。自分に? 自分に!

途切れる。天下一品の床みたいな髪、撫でて、撫でて、撫でて 指のに
おい嗅いで、嗅いでくれよ、「死ねブス」。 「お前が死ねばよかった」
「生まれてきたくなかった」「なら死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死
ね」「死ね」の声 声が ベランダのない部屋でランハンシャしながら
あいまいになる、南向きのまばゆさに混じる、いちばんたいせつな本
が水槽に沈められたとき しゅんかんみずしぶき ひとつぶひとつぶ 
の 隙間に交差するほこり 逆光とか ひとりでぜんぶやった。「ひか
りがやった」。そういうことになった。




  sea


水際(顔にかかる)
背中(にも散る)

まだらシャツ
  (砂しかない)砂浜(で 砂のお城を建てる)
  (四方、
八方に海がある)(砂も……
ある)どこから(も)どこまで

  (も 境い目)
  (崩れる 建てる 崩れる 建てる 崩れる わたしの
……、素手(で穴を掘る)
われたツメ 埋葬(する/してくれる?)(わたし
を……
  (ぬれた木に火はつかない)
  「ケドあたし 日本に生まれたヨ……」)

  (土葬?)(土葬。)(土葬?)
  (……、) 吃る波 フラクタル self-contained
                       水際




  lemon


殴られたひとから
電話がある

はんぶんくらい
ききとれないところで

年の瀬だけ
煙草を吸う右手と

体重をのせた左腕が
おとこに掠る

殴られたひとは
殴られたままでいる

なにもないよ
自覚厨だし

レモンサワーの
レモンがきつすぎる






++ MYSELF ++++++++

  imaginary


あねのぬれたてがまぼろしに現れ
繋がっているのか血よ
シをさがして顕微鏡に光り

軟骨あまがむわたしはあねのないいもうと
て首の代わりに
ひとえの瞼へ浅いきずをつくる
ふたえになれないかさぶたはせめてものしるしだから

マイスリーの見せる幻覚だとしても

わたしの名は
いもうとの名
胎児の眼底に降りつづけるマリンスノーが
痛いほどのまどろみにいつまでも映写されていく




gospel


植物園のまなうら
ぼくが知らない沼の
位相 その淵で
粗くなるかれはふぶき
さくらの木の固さ
ついに訪れない
ゆたかな老後に鳴る笛
あるいは野
祈りを祈ること 叫んで
その場所を賛歌にする
遠くかれを
間違えないためだけの
眼鏡を外すけれど
ぼくの近眼はモネと
同じ世界を見ない




  reverse


読めない川の碑
すぐそばの息遣いが
淀むところで光る
黴か苔か
泡だらけの手で
風も抜けない工事中の旧居に
永遠と漢字で書く

屋上のあかるさに耐えかね
浮かぶ竹箸に
洗剤のにおいが移る
静かな怒号 春に
拾った炊飯器で飯を炊く

冷え切った爪先で逃げた
コンクリートを砕く音から
祈るような食事へ
河川敷のおそろしいみどりと
まぼろしのような怒りに
狂いながら暮らすしかないのか




  twilight

子どもの私の写真
の、写真を
何度 撮ってもブレる

二〇二〇年八月
屋根裏に映写機、
踊るひとのシャツが
うつりゆく柄物になる

ひとが切り
り 抜かれた面
対面、
やわらかな暗がり
回折するphoton
それぞれを撮るひと、また、ひと。

彼ら・彼女らの胸に
気泡が弾けつづけ

右腕に落ちる水。手の甲のにおい。まぼろしに濡れる眼鏡をシャツの
裾で拭くたび、幾層にも堆積したまぼろしがレンズの表面で溶けて混
ざりあい、乾いてまた、まぼろしのうすい膜を成した。

二〇二〇年十二月
夕暮れを
スマホの解像度で見ている






++ YOU AND I AND ++

  liquid


雨もりは茶色い
コップにティッシュ詰めてうけとる
それから
本をビニール袋でつつむ

どうせバレないでしょ
半裸でベランダ
ずぶぬれになってみる
風邪はひかないていどに。なんだ、
無性に
吸いたい、

ぜったい死ねないところ
書きたいことも悔いもないのに
ぜったい溶けないからだ
あと眼鏡
パンツはすこし減ったよ
多分

溝で
絡まっている枯れ葉
髪の毛
アタック詰め替えたあとのやつ




  wave

理科室で 実験できないあなたは
窓ぎわで光り こぼれる(り……
あなたと 婚約する
大きなおとと
擦り切れた脳みそで
何か(何だったか……
言おうとしても
言葉が虫歯に引っかかり
(痛い……
わたくしは夢を見る
あなたと
歩道橋を渡る(そして
そうして……
「カーテン閉める?」と
立ち上がるあなた
夜が ガラスを鏡にして
あなたのかたちの
ガラスの向こうへ抜けて行ったぶんを
わたくしは
拾い集めようと
掬う光子は 指の間からこぼれ
あなたと
わたくしの隙間を漂うのです……
擦り切れた脳みそで
愛を 告げようとしても
禁煙に失敗したあなたの
吐く煙の匂いに
くらくらして上手く できない




  trace


満員のバスに
押し込める体の
内側で
すこし壊れるたましひ、
これは本当に
きみに抱かれるのと同じ
体か
曇る眼鏡
街を打つ、
倫理的ではない雨
知らない人の手が
ピアスを掠めて
最後に痴漢された日から
思い返す、今日まで

たとえば、換気のために
すこし開いた窓から
スマホの画面に降った雨粒がレンズになって
白い画面から赤や緑を
分光するとき
たとえば、きみの
「霊の苦み」なんていう
大げさなレトリックや
詩を書かなくなって長い、彼の
論文に残るかすかな 痕跡

ひかり、という言葉を
胸のうらで繰り返す
詩の跡を探して
誰かの名前みたいに
ひかり、と
ひらがなで書く
たとえば、彼に貰った積分を
計算しているノートの
まんなかに、
かたすみに、
あるいは夢のなかで立つ
波打ち際に何度も





++ SONGS +++++++++

切って貼ってハートの箱にリボンしてこれはあなたのための比喩だよ

マフラーをむりやり巻いてくれそしてまばゆい駅まで手を引いてくれ

きみのからだを傾けるとき水こぼれ、これは比喩ではない不等式

けだものの名残る瞳で吾を抱くきみの筆跡なぜうつくしい

殴られるのが好き殴り返すのも夜の線路をむりやり越える



自由詩 完備 第二詩集『mirage』 Copyright 完備 ver.2 2023-04-30 03:21:59
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